7−1.Ind、Cl、およびPrcl
″個体″という概念は、形式的に捕え難い概念である。
素朴な言い方をすれば、集合はものの集まりであり、個体とは集合ではないもの、となる。
集合論に個体をとり入れる場合、たとえば、この″集合ではない″という述語を導入し、要素をもたないものも、集合ではないと形容されているばあいは異なることがある、とすることが一つの方法である。
集合論の公理が個体に及ばないようにするわけである。さもないと、要素をもたないものは空集合に等しくなり、個体は存在しなくなる。
しかし、この方法は無定義に集合のための変数と、個体のための変数を二つ用意するのと同じことであり、理論全体を見れば、個体を表わす変数の性格が想像できるとはいうものの、分かりやすく説明されているとは言えない。
この節では、集合によって個体が定義できることを示したい。
自然言語において、個体や集合という言葉がどのように使われているかを見ることにする。
たとえば、一個のりんごは個体であり、三個のりんごを入れたかごはりんごの集合である、一輪の花は個体であり、十本の花を束ねた花束は花の集合である。また、一瓶のワインは個体であり、一ダースのワインを納めたケースはワインの集合である。
ここで、集合を表わすほうの例において、「かご」、「花束」、「ケース」、などの具体的な「もの」を表わす言葉が選ばれていることに注意してほしい。これは話を進めるためのたいせつな仕掛けである。ただし、のちに形式的な理論においてはこのような具体的な「もの」は必要ないことが示される。
さて、上の例も見方を変えると容易に集合や個体の概念が代わりうることを示す。
たとえば一個のりんごは集合である。なぜなら、りんごはりんごの細胞の集まったものである。また、りんごは種、芯、果実、皮、などの「要素」を持っていると言ってもよいし、水素、酸素、炭素、などの原子の集合体ということも可能である。
一輪の花や、一瓶のワインの例においても同様に考えられることが理解されるであろう。
さらに、集合も見方を変えれば個体となる。
りんご一かごも、花一束も、ワイン一ケースも、「かご」や「花束」や「ケース」に注目すればそれらは個体となる。
事実、今、一かご、一束、一ケースなどと、あたかもそれらが一個の「もの」のように数えたところである。
「一個」なのは、かごと、花を束ねたリボンと、ケースなのであって、りんごと花とワイン自体は、依然として三個、十本、十二本、の要素を持つ集合となっている、という批判はあたらない。
なぜならば、我々は空のかごやケースを数えたのではなく、確かに、りんご三個やワイン十二本をまとまった一つのものとして認識し、そう扱ったのである。そして、かごやリボンやケースはある集合をそのように見る手助けをしていることになる。
いままでの考察によって、個体と集合が互いに替りうる概念であることが理解された。 ところで 、ある「もの」はどのような場合に個体となり、集合となるのだろうか。
上の例によって明らかになったことは、「見方」を一つ定めると、それによって個体や集合が決定される、ということである。
すなわち、「もの」はいつでも要素の集まりなのであるが、その要素がいま考察している世界に属している場合は、「もの」は集合となり、反対に、要素が世界の外にある場合……考えている対象外とする、あるいは要素を無視している……は「もの」は個体となるのである。
定義を形式的に表せば、つぎのようになる。
Set x Df. ∀a a∈x ⇒ Obj a
Ind x Df. ¬Set x または、
∃a a∈x ∧ ¬Obj a
ただし、Objは対象、Indは個体を表す述語である。
りんごの例でいえば、 一個一個のりんごを考慮の対象にするなら、
Set りんご一かご
なぜなら、Obj 一番目のりんご、Obj 二番目のりんご、
Obj 三番目のりんご
となり、りんご一かごは集合となる。
また、一個ずつのりんごを対象外とする、見ないことにするなら、
Ind りんご一かご
なぜなら、¬Obj あるりんご
となり、りんご一かごは個体となる。
すなわち、存在するすべての「もの」たちに対して、これとこれが対象であると定めること、今考慮している世界を決定すること……まえに一つの「見方」をとると表現した……によってある「もの」が集合となり、ある「もの」が個体となるのである。
このように、集合や個体という概念は「見方」に依存する相対的な概念である
形式的には、Objという無定義な述語を導入し、それによって集合や個体を定義するのであるが、「個体である」という述語を無定義に用いるよりは見通しのよい理論となる。
さて、FCにおいて個体などの概念を定義するために言葉の約束をしなければならない。 つまり、FCにはクラスや集まりなどの変数があるのであるが、そこに述語Objを導入し、さらにクラスや個体、集まりなどを定義するわけである。
この場合、前者のクラス、集まりと、後者のObjによって決まる相対的な概念のほうのクラスや個体、集まりを区別するために、あとのほうをClass、Individual、Atsumariなどとしるすことにする。
これらを、Cl、Ind、Atと略する。
FCのCl=相対的クラスと、Ind=個体の定義は次のようになる。
Cl x Df. ∃α α m x ∧ At α
At α Df. ∀a a ∈ α ⇒ Obj a
Ind x Df. Obj x ∧ ¬Cl x
すなわち、その要素がすべて考えている世界におさまっている集まりがAtであり、Atによって作られるクラスがClである。
また、IndはClではなくて、しかも、個体はほかのクラスの要素となりうるのであるから、さらにObjという条件が必要である。
さらに、プロパークラスも次のように定義できる。
Prcl x Df.Cl x ∧ ¬Obj x
PrclはProper Classの略
FCのクラスはすべて要素になるのであるから、FCには本来プロパークラスはない。
しかし、「要素とみなす」という述語Objを用いることによって、上のように相対的なPrclは定義できるのである。
7−2.集合論のFCへの表現
あるクラスの性質がいろいろな集合論に対して、どのように相対的なものであるかを具体的に見ることにする。
ZFにおける全クラスの定義は次のようになる、
∀a a∈α0 ⇔ Obj a
α0 m U −(7−1)
要素とみなすクラスすべてを集めた「集まりα0」の作るUが、全クラスである。
a=Uとすると、
U∈α0 ⇔ Obj U となり、
もし、U∈α0 が真ならば、 7−1式とあわせて
¬Set U と Obj U が真となる。 −(7−2)
ところで、ZFの正則性の公理からは ∀a ¬a∈a がえられる。
クラスはすべてSetである、というのであるから、
∀a Cl a ⇒ Set a −(7−3)
なお、At α0 より CI U 従って、 7−3式より、
Set U
しかし、これは 7−2 の結論に反する。ゆえに、
U∈α0 は偽であり、¬Obj Uがえられる。
Cl U ∧ ¬Obj U であるから、
Prcl U となる。 −(7−4 )
一方、クワインのMLにおいては全クラスはどのようなものだろうか。
同じように、全クラスとは要素となりうるクラスをすべて集めたAtによって作られるクラスであるから、
∀a a∈α1 ⇔ Obj a
α1 m U
クワインはMLのクラスの中、要素となるのはElement Hoodを持つもの、としているが、これはFCのObjと同じ概念である。(Eleと略する。)
そして、その定義はつぎのとうり、
Ele x Df.xの定義式が層別化されている
層別化とは、定義式に現れるすべての変数からZへの関数fがあって、定義式の 全てのa∈bという形の論理式に対して、f(a)+1=f(b)とできること。
これをFCの式になおすと、
Obj x Df.xの定義にあるすべての∃α a∈α ∧ α m b の形
の式について、f(a)+1=f(b)となるfがある。
Ex. ¬Obj R
∀a a∈β0 ⇔ ¬(∃α a∈α ∧ α m a)
β0 m R
右辺の定義式に対して、f(a)+1=f(a)は不可能。
さて、MLのUの定義式には、∈のある式はないので始めから層別化されている。
すなわち、
Obj U
ZFのUがPrclであるのとは異なっている。
このように、Objを定義すると、集合論が一つ定まり、それによってCl、Ind、
Prclなどが決まってゆく。
すなわち、FCへのある集合論の表現とは、
″Objの定義をFCの論理式で記述すること″
となる。
7 3.ZFのFCへの表現
ZFの表現を考えるためには、モース・ケリーの形式を用いるのが便利である。
すなわち、Set*という述語をつかう方法である。*印はFCのSetと区別するためである。この場合はふつうの意味、「集合である」、を表している。
ZFの公理から集合に関係したものだけをあげると、
A.φ Set* φ
A.ω ∃x φ∈x ∧ n∈x ⇒ n’∈x ∧ Set* x
n’Df.n∪{n}
A.pair Set* a ∧ Set* b ⇒ Set* {a,b}
A.∪ Set* x ⇒ Set* ∪x
A.P Set* x ⇒ Set* P(x)
A.⊂ Set* b ∧ a⊂b ⇒ Set* a
A.f Set* x ⇒ Set* f″x
A.reg ∀x∀y y⊂x ⇒ ∃a a∈y ∧ a∩y=φ
の8個であるが、これらの論理式のSet* をObjに書き換えれば、ZFのFCへの表現となる。すなわち、
A.0 Obj 0
A.w ∃x∃α 0∈α ∧ n∈α ⇒ n’∈α ∧ α m x
∧ Obj x
[A.n’]
A.pair Obj a ∧ Obj b ∧ {a,b} m x ⇒ Obj x A.∪ Obj x ∧ ∪x m y ∧ Cl x ⇒ Obj y
[A.size]
∪x Df. ∀a a∈∪x ⇔ ∃α∃c∃β a∈α ∧
α m c ∧ c∈β ∧ β m x
A.size Obj x ∧ size(x) m y ⇒ Obj y
size(x) Df.∀a a∈size(x) ⇔ ∃α a∈α ∧ α m x ∧
a∈size(x) ∧ b∈size(x) ∧ a∈α∧αmx ∧ b∈β∧βmx ⇒ a=b ⇔ α=β
A.P α m x ∧ Obj x ∧ P(α) m y ⇒ Obj y
P(α) Df.∀a a∈P(α) ⇔ ∃β β m a ∧ β⊆α
A.⊂ β m y ∧ Obj y ∧ α⊂β ∧ α m x ⇒ Obj x
A.f α m x ∧ Obj x ∧ f″α m y ⇒ Obj y
A.reg Objx ⇒ Set x
正則性の公理は要素の定義とは関係ないように見えるが、実はObjへの制限を 与えている。なぜなら、
ZFのA.regからは、定理として、すべてのクラスaについて¬a∈aが得ら れる。すなわち、
∀a Cl a ⇒ Set a
さらに、もし、Obj a ∧ ¬Cl a かつ ¬Set a なら、
∃α a∈α ∧ α m a ∧ ¬At α ゆえに、
¬Obj a [A.At]
Obj a ∧ ¬Cl a ⇒ Set a となり、
A.reg がえられる。
[A. At]は公理A.Atを用いたことを表している。
Objの公理によってZFにおいては何が要素となるかが定まり、それを用いてIndやPrclが定義できることになる。
なお、ZFのSet* の公理はObjの定義の他に、FCのSetの定義にも使うことが可能である。
すなわち、Set* をSetに書き換えればよい。
しかし、ObjとSetを両方一度に定義することはできない。
後の″集合論の分類″の項で示されるように、Obj=Setとすると矛盾が導かれる。
7−4. MLのFCへの表現
MLの場合も同じようにObjを定義することによってFCへの表現が得られる。
Obj a Df.aの定義式に現れるすべての∃α x∈α ∧ α m y に
対して、f(x)+1=f(y)となるように
クラス変数からNへの関数が定義できる。
これによって、MLのφやUはObjであり、Clであることが分かる。また、MLには個体が存在する。例えば、つぎのようなクラスU’を考えると、
α m U’∧
∀a a∈α ⇔ a=a
Uの定義式には、さらに右辺にObj aが必要である。
この集まりαには、RなどのObjではないクラスが要素として存在する。
従って ¬At α ゆえに ¬Cl U’ [A.Cl]
しかし Obj U’、これ は Ind U’の定義である。
Indなクラスが存在するという性質は、MLを他の集合論から区別する性質の一つとなる。
例えば、∀a Set a ⇒ Obj a が成り立つような集合論には個体が存在しない。
7−5. 集合論の分類
前節で一例を述べたように、各々の集合論においてObjとSetがどのような関係にあるかによって、その集合論の性質がかなり異なる。
従って、この関係を用いて次のように四つのケースに集合論を分類することができる。
*この節はまだ書きかけです。
最初によく使われる公理と述語の定義を記しておく。
A.Cl ∀a∀α Cl a ∧ α m a ⇒ At α
ClなクラスはAtな集まりのみによって作られることを表す。
A.At ∀b∀β b ∈ β ∧ ¬At β ⇒ ¬Obj b
Atではない集まりの要素はすべてObjではないことを表す。
Set b Df. ¬(∃β b∈β ∧ β m b)
FCのSetの定義である。自分自身を要素とする集まりがない。
Set_ob b Df. ¬(∃β b∈β ∧ β m b ∧ At β)
Objに対して相対的なSet。自分自身を要素とするAtな集まりがない。
Case.1 ∀a Obj a ⇒ Set a
ex.ZFの集合論
T.1−1 ¬Obj U
T.1−2 Set U
∀a a∈α ∧ α m U ⇔ Obj a
a=U
U∈α ∧ α m U ⇔ Obj U
故に
¬U∈α , ¬Obj U
さらに
¬Set U ならば
∃β U∈β ∧ β m U ,¬At β
¬Cl U [A.Cl]
Set U
T.1−3 ¬Set R
T.1−4 ¬Cl R
∀a a∈α ∧ α m R ⇔ Set a
a=R
R∈α ∧ α m R ⇔ Set R
¬R∈α, ¬Set R
¬Cl R [A.Cl]
T.1−Cl ∀a Cl a ⇒ Set a
T.1−5 ¬Set_ob R_ob
T.1−6 ¬Mt R_ob
∀a a∈α ∧ α m R_ob ⇔ Set_ob a
a=R_ob
R_ob∈α ∧ α m R_ob ⇔ Set_ob R_ob
Case.2 ∀a Set a ⇒ Obj a
ex.FC
T.2−1 Obj U
T.2−2 ¬Set U
∀a a∈α ∧ α m U ⇔ Obj a
U∈α ∧ α m U ⇔ Obj U
¬Obj U なら
¬Set U
¬Cl U [A.Cl]
¬Set U,Obj U
T.2−3 Obj R
T.2−4 ∀a ¬Prcl a
T.2−5 ∀a Ind a ⇒ Set a [A.At]
∀a a∈α ∧ α m R ⇔ Set a
R∈α ∧ α m R ⇔ Set R
¬R∈α , ¬Set R
Obj R [A.Cl]
Cl a ⇒ Obj a [A.Cl]
¬Prcl a
Ind a ⇒ Set a [A.At]
Case.3 ¬(∀a Set a ⇒ Obj a)∧
¬(∀a Obj a ⇒ Set a)∧
(∃ a Set a ∧ Obj a)
ex.ML
under construction