フィルモグラフィー順(★4つが最高)


郵便配達は二度ベルを鳴らす Ossessione ★★★★
【退廃事情】物質的な貧しさが心の貧しさを呼んでしまう事情。生きてゆくために結婚した女。定住を拒否し放浪し続ける男。夫殺しを要求する女。愛したはずの女を信じられない男。そんななかで、殺された夫が妻のためにかけていた保険が明るみになったときにはじめて、醜く太った夫が意外にもピュアな心を持っていたことに気がつく。

【感想】なにも言うことはない。わたしの大好きな映画。この話は今までいろんな人が映画にしているが、わたしはこのヴィスコンティ版が一番好きで、今改めて観てみても、はじめてこの映画を観たときの衝撃がよみがえる。最後の、男が、女を引きずるように抱きかかえて路上に登っていく様は、ある意味この映画の、イタリアのこの時代の「闇」の部分を象徴しているかのようだ。ちらりと見える女の死に顔もこわい。

■イタリア■1793年■脚本ルキーノ・ヴィスコンティ、マリオ・アリカータほか■共同脚本アルベルト・モラヴィア■原案ジェイムズ・ケインの小説「郵便配達は二度ベルを鳴らす」から■出演クララ・カラマイ、マッシモ・ジロッティ、ファン・デ・ランダ


栄光の日々 Giorni di gloria ★★
【退廃事情】退廃事情なし。栄光を求めて行なった戦争の傷跡に「退廃」という言葉は合わない。むしろ「荒廃」というべきか。

【感想】1945年の政治的プロバガンダ映画(ドキュメンタリー)。ヴィスコンティらしからぬ雰囲気で、これは彼の映画というより、彼の政治的興味が、この映画作りへの参加に走らせたといった感じがする。それを証拠に、この映画にはヴィスコンティ以外に3人の名前が監督としてクレジットされている。貴重な映像が見られてよかったとは思うが、イタリアの政治的事情がよくみえないために妙に堅苦しく写る。もう少し(マイケル・ムーアのように 笑)編集にユーモアを盛りこんでくれてもよかった。

■イタリア■1945年■監督マリオ・セランドレイ、ルキーノ・ヴィスコンティ、マルチェッロ・パリエロ、ジョゼッペ・デ・サンティス


夏の嵐 Senso ★★
【退廃事情】伯爵夫人も将校も、身分相応の環境に満足できなかったというところに事情あり。

【感想】太陽が光り輝くイタリアではなく、ここでは灰色の暗い空が深くたれこめるイタリアが描かれる。そんな気候に合わせるかのように、話の展開もまったく光が射し込まない。将校に恋し、身も心も金までも与え尽くして堕ちてゆく伯爵夫人。これはヴィスコンティならではの題材だが、見ているうちに結末はわかってしまったので、後はそれを確かめるために見ているようなものだった。気になったのは、雨上がりの濡れた路上を、長いスカートの裾を引きずって歩いていること。日本の着物はそれなりに着付けの段階で裾を上げて着ることができるのでさほど気にならないが、西洋の昔の服は裾が泥まみれになりそうで、「あれどうにかしたい」と思ってしまったのは余計なお世話か。

■イタリア■1954年■原作カミッロ・ボーイト「夏の嵐」■撮影監督G.R.アルド■出演アリダ・ヴァッリ、ファーリー・グレンジャー、マッシモ・ジロッティ


若者のすべて Rocco e i suoi fratelli ★★★★
【退廃事情】自分のやるべきことを怠れば、人はいとも簡単に退廃的になれる。怠惰・堕落・身勝手、それに寛大さが加わると悪循環になる。退廃は、心のゆるみと甘えに忍び込んでくるという事情。

【感想】最初の方で、わたしみたいな人が出てきて思わず笑ってしまった。この映画の主役ともいえるある家族の長男の婚約パーティの最中に、「じゃ僕は映画に行って来る」といって祝いの席を中座するヤツ。「毎晩毎晩よく続くわねえ」という科白がその後続くのだが、こんなちょっとしたひとコマでも映画狂を登場させるヴィスコンティのセンスというか、粋な演出に一人にやにやしてしまった。映画の方は、田舎から都会に豊かさを求めて移住してきた家族が、次男シモーネの堕落がもとで家族もろとも堕ちていくという話。話の作りがしっかりしていて、かつ177分という長さのせいか、とても見応えのある作品だった。堕落は金持ちの特権ではない。「義務」を怠れば人は堕落してしまうのだ。とは四男チーロの言葉。この言葉がすべてを表現している。アニー・ジラルドがここでは次男を狂わす娼婦役として登場。ヴィスコンティお抱えの役者アラン・ドロンがいいとこ取りしている。

■イタリア■1960年■撮影ジョゼッペ・ロトゥンノ■音楽ニーノ・ロータ■出演アラン・ドロン、アニー・ジラルド、レナート・サルヴァドーリ、カティナ・パクシノウ


前金 Il lavoro(episodio di Boccaccio '70) ★★★
【退廃事情】はじめから退廃していたという事情。金持ちの女と結婚した男が好き勝手遊び放題。いざバレそうになったら弁護士に泣きつき、最後は、離婚を言い渡された妻を金で買うことに。いくら妻の提案といえども、こんなことをしゃあしゃあと引き受けてしまう。この退廃感はたまらない。

【感想】映画をなんの予備知識なしで見ると楽しいことがいっぱい。冒頭のクレジットに“トーマス・ミリアン”と“ロミー・シュナイダー”の文字を見つけたときは思わず歓喜。わたしはマカロニウエスタン以外でトーマス・ミリアンなんかを見たことなかったし、若いときのロミー・シュナイダーを見ていると、なぜか彼女の晩年の不幸な人生が重なって悲しくなってしまった。最後の、札束に重なる唇の映像がなんともいえないヴィスコンティ。

■イタリア=フランス■1962年■撮影ジョゼッペ・ロトゥンノ■原作ギイ・ド・モーパッサンの短編「ベッドの端で」■出演トーマス・ミリアン、ロミー・シュナイダー


疲れ切った魔女(「華やかな魔女たち」から) La strega bruciata viva ★★
【退廃事情】これといった事情はないが、強いて言えば、人気女優の美しさを妬ましく思う女たちの退廃度は高い。気を失って倒れた女優のまわりに、まるでハイエナのように、ああでもないこうでもないとたかる女たちのシーンはおもしろい。

【感想】『若者のすべて』で娼婦の役になったアニー・ジラルドがまたもや出ている。冒頭の、サイケな音楽とアート風に作られたクレジットがおもしろい。アートと映画を融合させた実験的な要素もうかがえる。わたしは本当に魔女が出てくるのではないかと楽しみにしていたのだが、単に売れっ子女優を「魔女」として見立てて描いているのにちょっとがっくり。

■イタリア=フランス■1967年■撮影ジョゼッペ・ロトゥンノ■音楽ピエロ・ピッチョーニ■出演シルヴァーナ・マンガノ、アニー・ジラルド、フランシスコ・ラバル、マッシモ・ジロッティ


異邦人 Lo straniero ★★
【退廃事情】ありそうでない退廃事情。

【感想】以前「ねこたま倶楽部」に書いた、モリコーネとかクリント・イーストウッドの名前が、「モ」の字も「ク」の字もパンフレットに記載されていなかった。わたしが見たのは幻か?! 映画はちょっと異色的な雰囲気で、カルト映画とも実験映画ともとれる。個人的にはムルソー演じるマルチェロ・マストロヤンニが適役でないような気もした。無関心とか無感動とかの、無機質的な要素は彼にはない。彼はいつも明解で、自分が今やっていることをいつも確信している男だ。だからこの映画の彼は喜劇的ですらある。恋人から「わたしのこと好き?」と聞かれて、好きではないと答える。この場面で会場から笑いが洩れる。このシーンは異邦人たるムルソーの本質を表わしており、笑いを誘う台詞ではないのだ。もしかしてマストロヤンニには、ムルソーの男の心境がよく理解できないまま演じさせられていたのかもしれないとも思う。

異邦人についての個人的主観(後日更新)

■イタリア=フランス■1967年■撮影ジョゼッペ・ロトゥンノ■原作アルベール・カミュ「異邦人」■出演マルチェロ・マストロヤンニ、アンナ・カリーナ


ヴィスコンティ映画祭について

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