<ヤマガタ+plus> 映画祭“Post Fiction!”
2002年8月31日〜 9月27日 東京・東中野「BOX東中野」
ドキュメンタリーなんていうと、すぐさまNHKで放映しているドキュメンタリー特集なんぞ思い出してしまって、お勉強にはなるけど映画としてはいまいちねえ〜、なんて思っている方、いえいえ“ドキュメンタリー”とひとくちにいってもいろいろありましてね。フィクションまがいのものからただ単純に人や風景を追ったもの、ロードムーヴィからアート・実験映画的なものまで、そのジャンルはさまざまで奥深い。まさに「記録映画」でございますよ。

1989年から2年に一度開催されている「山形国際ドキュメンタリー映画祭」。その映画祭で、昨年2001年に上映された作品をいくつかピックアップし、プラス、今までの人気作や話題作、また世界各地から選りすぐって集めたドキュメンタリーの数々を特集したのが、この“Post Fiction!”。
ちらしには、ゴダールの“
すべての映画はドキュメンタリーである”などという言葉も引用されていて、その映画祭としての意気込みはすごい。そして上映された映画の数もすごい。全部で139作品。もちろんわたしは全部観た・・・い気持ちだけはあったが、ドキュメンタリーを見続けるにはかなりの精神力がいるということに気がついた。結局12本のみ鑑賞というちょっとさみしい結果になってしまった。

■関連コラム「ルート1を見に大阪に行って来た


鑑賞順(★4つが最高)

[ゴースト・オブ・エレクトリシティ]★★
[忘却に抗って〜命のための30通の手紙〜]★★★
[メタル&メランコリー]★
[ロバート・イーズ]★★
[刑法175条]★★★★
[アインシュタインの脳]★★★★
[死神博士の栄光と没落]★★★★
[あるアナーキスト〜ドゥルティの生涯〜] ★★
[鳥のように〜ラ・ドゥヴィニエール〜]★★★
[主人の館と奴隷小屋]★
[平原の都市群]★★★★
[シックス・イージー・ピーセス]★
[ルート1]★★★★




ロバート・クレイマー特集
ゴースト・オブ・エレクトリシティ Ghosts of electricity [1997年/スイス]
前半はクレイマーの家族を田舎の別荘とその周辺で撮影したもの、後半はパリの自宅にての撮影。
ロバート・クレイマーはドキュメンタリー作家である前に映像作家であるとわたしは思う。美しく鮮明で、静的で、かつ動的でもあるその映像は、見ているうちに心が透き通っていきそうだ。奥さんの髪の間を虫がはう、これだけのことなのになんでこんなにきれいなんだろう。


忘却に抗って〜命のための30通の手紙〜 Against forgetting [1991年/フランス]
アムネスティ・インターナショナル・フランスからの依頼を受け、30人の映像作家が、世界各地の人権弾圧を行なっている政治指導者への抗議文30通を、それぞれ3分間の短編映画に仕上げたもの。ロバート・クレイマーは文士ヒューバート・リーブスを迎えての製作。

いきなりエマニュエル・ベアールが出てきたのにはおどろいた。
この映画に対しては何の前知識がなかったので、すごいうれしかった。
フランスのことを少しでも知っている方ならば、彼女がだいぶ前から、フランスにおいての人権抑圧に対しての活動を行っているのは有名なところ。また人道活動と称して、アフリカのどこか(国名は忘れてしまったが)でボランティアを行ったときのレポートを、ずいぶん前に見たことがある。
そのあと出るわ出るわ、フランスの有名な俳優・女優・歌手・文士などの面々(リストはこちら)。
なかでもイザベル・ユペールが一番すごかった! 最初は目を伏せて手にしていた抗議文を読みんでいたのが、最後には正面のカメラをじっと見据え、まばたきひとつせず、まさに「抗議」している様には感動した。
また、ラップのリズムに乗せながら抗議するロベール・バダンテール(この人のことは良く知らない)を、ラップなどとはまるで縁がなさそうな硬派の映画作家コスタ・ガヴラスが撮るという異色の組み合わせはとても新鮮だった。


平原の都市群 La cite de la plaine [1999-2000年/フランス]
1999年11月に亡くなったクレイマーの遺作。
まず邦題の説明不足から。邦題では“都市群”となっているが、原題の "la cite" とは、この場合、都市郊外に忽然と建てられている集合住宅地域のこと。そこに住む人たちの多くは低所得労働者や移民たちで、この映画の主人公となるベンという男も例外じゃない。
アルジェリアから移住してきた彼はフランス女性と結婚し、娘をもうけた。しかしあまりにもマッチョなイスラム男だったために、一時帰国している間に妻とこどもに逃げられ、自分の店も売りに出され、喧嘩の末、盲目となってしまう。無一文となり目が見えなくなってしまったのは、彼の今までの不遜な生き方に対する神の摂理か。クレイマーは、その男の過去を迫力ある映像で蘇らせると同時に、ところどころに死の香り漂う映像を挿入しながら語りかける。「生」と相反する「死」もまた美しいものなのだ。


ルート1 Route 1 / USA [1989年/フランス]
山形国際ドキュメンタリー映画祭1989年最優秀賞作品。
ヨーロッパで活動していた監督ロバート・クレイマーが10年ぶりにアメリカに里帰りし、ハイウェイ・ルート1の起点から最終地点キー・ラーゴまで南下する、監督自らを撮り続けたロードムーヴィ。上映時間は4時間15分。まさにロードムーヴィの本質ここにありといった感じだ。
ロードムーヴィとは旅する人が流れゆくまま描かれる。ロード(道)を映し、風景を映し、決して屋根の下にとどまることはない。そこで
多くの物や人と出会い、それらの出会いのなかで人は変わってゆくのだが、その変わりゆく人もまた流れの一部となる。
クレイマーが目にしたものは、今まで見たことのないアメリカの姿であり、またよく知っているアメリカの姿でもある。変わりゆくアメリカの姿でもあり、全然変わらないアメリカの姿でもある。
車のハブだけを売っている露店、ネイティブアメリカンの子孫が集まって暮らす共同体、オイルサーディン工場や排他的なバプチスト・クリスチャンの信者、大統領選のキャンペーンでは大統領候補の支持者たちの輪に囲まれ、そして、古くは氷河期の頃からあったとされるボストンの街を巡る。南北戦争の碑の前で戦争の生き残りであった祖父を持つ女性と出会い、黒人や移民たちが集まって暮らしている貧民街で医師として
ボランティアをする。こんな、人生を流れるように渡り歩く旅を、わたしもいつかしたいなあと思う。一番印象的だったのはロバート・クレイマー彼自身だ。まるで一日中アルコールが入っているような人なつっこい顔。緊張感のない緩和した性格は、人を受け入れ、拒まず、決して怒らせない。まるで純朴なこどものようなその顔つきに、優れたドキュメンタリー作家としての真髄を見たような気がした。


メタル&メランコリー Metal and melancholy
[1993年/オランダ/監督エディ・ホグニマン]
ペルーの首都リマで、流しをしているタクシーの運転手たち。彼らの話を聞きながらリマの街の現状を撮しだす。ときおり流れるラテンの音楽が心地よく、タクシーに揺られながら、ついうとうとと眠ってしまった。こんなにもほのぼのとしたドキュメンタリーも珍しい。運転手たちが、車泥棒に遭わないための「策」として、車の扉にある取っ手に手をかけると、ドアもろとも外れてしまうポンコツ車をわざと直さないでいたり、車から離れるときにはいつもギアを取り外し家に持って帰ったりするというのがおかしい。


ロバート・イーズ Southern comfort
[2000年/アメリカ/監督ケイト・デイヴィス]
女から男へ、男から女へ。性同一性傷害を題材にしたドキュメンタリー。トランスジェンダーを扱った映画は多々あるが、実際にドキュメントとしてみるとやはり彼らの生きざまに心打たれる。ロバート・イーズは、女性として生まれ一度は結婚して2人のこどもを産んだが、その後、FTM*となる。彼を取り巻く友人たちの温かさと、ロバート自身のまっすぐな生き方にじわりとくる。こちらは今年の「東京国際レズビアン&ゲイ映画祭」でも上映された作品。東京では「BOX東中野」にて一般公開されます。

*FTM=female to male(女性から男性へ)の略。その逆はMTF=male to female(男性から女性へ)


刑法175条 Paragraph 175
[2000年/アメリカ/監督ロブ・エブスタイン、ジェフリー・フリードマン]
待ちに待ったロブ・エブスタイン&ジェフリー・フリードマンの新作。前作『セルロイド・クローゼット』はおもしろかった。前作同様、またもや「同性愛」を題材にしたものだが、前に比べると今回のは中身も深く感動的ですらある。
これは、同性愛者を差別する条項、ドイツ刑法175条により、ナチスによる同性愛(特に男同士)の迫害を暴いたドキュメンタリー。

1933年ヒトラーがドイツ首相となり、翌年より同性愛者への迫害がはじまる。ゲイたちが群れ集うクラブの閉鎖からはじまり、捕まえた同性愛者たちを裁判にかけずに拘束したり、有無をいわせず強制収容所に連れて行き、ユダヤ人同様絶滅させられたのだ。
(ナチス親衛隊の中にも同性愛者の男レームがいたが、1935年に亡くなっている)
レポーターを勤めるのはドイツ人記者
クラウス・ミューラー
彼はポーランド、フランス、ドイツに在住する“生き残り”を探しあて、当時の話を聞く。最初は「今さらなにを」という不満を露わにしていた彼らだったが、しだいに口を開き、ぽつりぽつりと話はじめる。中でも特にすごかったのは“歌う森”の証言。“歌う森”とは、収容所内の森の中に杭をうち立て、人間を吊し、ぐるぐると回す。吊された人間があげる悲鳴や呻き声、泣き声が森の中いっぱいに響き渡り“歌う森”となる。胸に詰まるこの証言。これを話すときの、その老人の瞳のなんと美しいことか。


アインシュタインの脳 Relics-Einstein's brain
[1994年/イギリス/監督ケヴィン・ハル]
抱腹絶倒のドキュメンタリー。わたしは未だかつてドキュメンタリーでこんなに笑ったことはない! こどもの頃からアインシュタインが大好きで、アインシュタインの研究家でもある日本の数学者杉元賢治さん。彼が、アメリカにまだ存在していると噂される“アインシュタインの脳”を探しに行く。いちいちおかしい行為行動と言動の数々。人に出会うたびに、「アインシュタインの脳はどこにあるか?」と聞いて回る、その一途な姿が憎めない。いやはや単に変人とはいうには惜しい、人が物事に一途になると誰もが奇人となりうることを教えてくれる。彼はただ、自分の大好きな人の脳味噌が欲しかっただけなのだよ。


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