イラン映画祭2004
■2004年6月4日〜13日 ■東京・赤坂「国際交流基金フォーラム」
ここ数年、いわゆる映画祭というものがどんどん増えてきているような気もしますが、今年はじめて開催されたこのイラン映画祭も、今年数多く行なわれる映画祭のひとつ。わたしが一番最初にこの映画祭開催のことを知ったのは、東京フィルメックスから配信されているメールマガジンからでしたが、このメルマガに載せてあったリンクを辿っていくと、なんと東京フィルメックスの公式HPに。なるほどこの映画祭はフィルメックスが企画・運営しているらしい。そういえば、会場にもフィルメックスのディレクターとしてもうすっかりおなじみの市川さんの顔が・・・

ちょっと話がずれますが、この映画祭の会場になったのが、東京・赤坂にある「国際交流基金フォーラム」なんですけど、この辺って、個人的に地理的にあまりどころかぜんぜん詳しくないし、土日・休日に行くとどこも閑散としていて、開いているのは喫茶店ぐらい。ごはんはどこで食べたらいいの?てな感じですよね。そんなとき、わたしはいつも、「赤坂ツインタワービル」(地下鉄溜池山王降りてすぐ上)の2階にあるピタパンの店「
PITA THE GREAT」で腹ごしらえ。
この店、場所がちょっとわかりにくいのですが、ツインタワービルとはいっても、店の入口はビルの外側にある。いったんビルの外にでて脇道をツツと行き、階段をツツツと登ればもう「
PITA THE GREAT」。あ、でもここも日曜日はお休みだから要注意だ。

メニューは、ピタサンド各種520円、飲み物も250円と値段もまま手頃。持ち帰りもできるし、店の脇にテラスがあるからそこで食べてもよし。ご主人はイスラエル人なのでピタパンも本場仕立て。中身も外身も素朴な味。うっまーい。個人的にはピタパンの生地の味がとってもスキ! ボリュームもたっぷりだからお腹いっぱいになるし、目立たないところにあるせいか客足も少なく昼寝もできる。こんなんでやっていけるの?なんて余計なお世話なんかもしてしまいそう。

さて、お腹いっぱいになったところでそろそろ映画の話に戻ります。
まずは全体的な印象から。

「暗い」「重たい」「やりきれない」というのがわたしの印象。上映作品10作品のうち、4作品しか観てないので全体的な印象からはほど遠いかもしれませんが、思ったよりシリアスな映画が多く、いつもと違うイラン映画を求めていったわたしは、まるでいつも通りのイラン映画だったので特に新しい発見はなかった。描かれるテーマも、虐げられる女性、貧困、失業、社会から抑圧される人たちで、現実的ではあるのかもしれないが、こんな映画を観たあとは、ちょっと気分を変えて楽しい映画を観たくなる。だから初日に観た『ボイコット』があまりにも重たかったので、気分直しに観に行ったインド映画『アマル・アクバル・アントニー』の素晴らしさったらなかった! いや、これは『ボイコット』が良くない映画だったってわけでは、けっしてけっしてないのですよ。



【観賞順】

ボイコット
The Boycotte
■監督モフセン・マフマルバフ■1986年■出演マジッド・マジディ
『カンダハール』の監督モフセン・マフマルバフの獄中体験をもとに映画化されたもの。冒頭の、反政府たちの動きとか街中の銃撃戦以外はすべて、獄中での情景が描かれる。監督=体験者は語る。獄中の囚人たちのおかれた環境の、人間以下の扱い、細かな部分までもがリアルで、単に想像だけで描いたものではないのだなということがびしびし伝わってくる。囚人たちの、精神的にも肉体的にも追いつめられる様子が生々しくもあり苦しくもあり。でも個人的には、冒頭の街中での銃撃戦が、さながら1970年代のB級アメリカ映画みたいでおもしろかった。というか、このまま彼らが政府をひっくり返してくれれば良かったと思った。でもそうなるとこの映画の題名=テーマ(ボイコットされる人たち)にそぐわなくなるのだが。

また、主役のマジッド・マジディは、この後映画作家となり、『運動靴と赤い金魚』『太陽は、ぼくの瞳』『少女の髪どめ』などの長編を作った人です。



街の影
Under the Skin of the city
■監督ラクシャン・バニエテマド■2001年■出演ゴラブ・アディネ
これはどう表現したらよいのだろう。母は強しというべきか、イランは女性の存在で保っているというべきか。監督が女性だからというわけではないだろうが、このなかで描かれる男たちのなんと頼りないことよ。この映画は、ある女性の家族の行方が描かれているのだが、足が不自由で満足に働けない夫を筆頭に、真面目で優しくはあるのだが、現状に耐えられず金持ちになるのを夢見るばかりの長男。長女は、嫁いだ先で夫の不機嫌から殴られるのが日常になっている。さらに隣に住む次女の友人もヤク中の兄から殴られている。イランの男は、最終的には弱いものを殴るしか能がないのか?と思えるほどに、女たちは日々暴力に脅えながら暮らしている。それでもイスラム社会に住む女性たちは、相変わらずこのような仕打ちを受けているのだろうと思うとやるせない、たまらない。母親に読み書きを教えている次男の「女たちは、読み書きができないから虐げられるんだよ」という言葉が虚しく響く。そうじゃないだろう、とわたしは思う。女を犬猫のように扱う男こそ、もっと先になんとかすべきなのだ。女流監督からこのような台詞が生まれるとはある意味衝撃だ。最後には、ただただこの主役の女性の強さのみが印象に残る映画だった。

■2001年モスクワ映画祭審査員特別賞、トリノ映画祭観客賞ほか受賞



クスノキの匂い、ジャスミンの香り
Smell of Camphor, Fragrance of Jasmin
■監督バフマン・ファルマナーラ■2000年■出演レザ・キアニアン
バフマン・ファルマナーラ監督は特別な人のようだ。もともと映画作家だった彼は、映画作りをやめていた間キアロスタミの作品のプロデュースもしていたらしい。そして久々に発表するこの作品。「死」にまつわるこの映画は、テーマ自体は暗いものの、ときどきくすっと笑うおかしな場面あり、映画の撮り方といい話の巧さといい、映画としては質が一番高かったように思う。
伴侶の死以来、自らも死にとりつかれた男が、日常のいたるところで「死」のにおいを感じとる。それは向こうからやってくるものでもあり、こちらから招き寄せるものでもある。妻のお墓参りに行く途中、出会った女が死んだ赤ん坊を抱えていたというのも偶然ではないだろう。暗く沈んだ女の顔が死に神のようにも見え、そんな女を車に乗せたことで、男の魂は死にいっそう近くなる。生への渇望と、死への誘惑。この映画はその双方がうまく描かれていたと思う。

■2000年モントリオール映画祭審査員賞受賞



ベマニ
Bemani
■監督ダリウシュ・メールジュイ■2002年■出演ネダ・アガレイ
またもやイラン社会における女性問題を描いた作品。
主人公はベマニという名前の女性だが、彼女の友人たちの身の上に起こる出来事をもていねいに描くことで、イラン社会における女性たちの抑圧された姿を見せている。

大学に行くことを反対され、父親に監禁されたあげく焼身自殺を図る女性。イラン兵士とおしゃべりしただけで売春扱いされ、身内から首を切られて殺される女性。そしてまたベマニ自身も、家賃を払えないため強制的に大家の爺さんと結婚させられてしまう。
書き上げているとキリがないほどに、女性たちは、だた女であるということだけでその存在をないがしろにされる。観ているとつらくなることばかりだが、それでもこの映画は、最後には「救い」が見られるのが一番の魅力だ。嫁いだ先から逃げ出したあと、いったん自宅に戻って焼身自殺を図ったベマニだったが、一命をとりとめ家を出る。そして辿り着いたところが墓場の仕事をしている男の家。火傷をおって醜くなった顔を見ても男はなにも言わず、自分が戦争から生きのびてきたことを説と語る。「おれのところにずっといるか?」と優しくベマニに聞くラストに、心がぱあっと明るくなる。イランには、ちゃあんと女を受け入れることができる人もいるのだな。「ベマニ」とは“生き延びる”という意味らしい。

■2002年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門上映作品



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